文科省で有識者ら議論、プログラミング教育の在り方について(その1)

○  本有識者会議は、各界の専門家が分野を越えて知見を持ち寄り、特に小学校段階におけるプログラミング教育の意義や在り方について認識の共有を図り、各小学校における今後の円滑な実施につなげていくことを目的としたものである。


○  小学校段階におけるプログラミング教育については、学校と民間が連携した意欲的な取組が広がりつつある一方で、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を覚えることがプログラミング教育の目的であるとの誤解が広がりつつあるのではないかとの指摘もある。“小さいうちにコーディングを覚えさせないと子供が将来苦労するのではないか”といった保護者の心理からの過熱ぶりや、反対に“コーディングは時代によって変わるから、プログラミング教育に時間をかけることは全くの無駄ではないか”といった反応も、こうした誤解に基づくものではないかと考えられる。


○  プログラミング教育とは、子供たちに、コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら、将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力としての「プログラミング的思考」などを育むことであり、コーディングを覚えることが目的ではない。こうしたプログラミング教育についての考え方や、小学校段階における具体的な在り方等を、下記3.や4.において示している。


○  また、こうしたプログラミング教育を実施する前提として、言語能力の育成や各教科等における思考力の育成など、全ての教育の基盤として長年重視されてきている資質・能力の重要性もますます高まるものであると考えられる。こうした資質・能力の育成もしっかりと図っていくこと、また、小学校におけるプログラミング教育の実施に当たっては、ICT環境の整備や指導体制の確保等の条件整備が不可欠であること等についても下記2.や5.において提言している。


○  小学校段階におけるプログラミング教育について議論をまとめるに当たっては、人工知能の進化等にみられる、近年の急速な情報化の進展が教育に与える影響や、そうした中で教育課程全体としてどのような力を育成していくことが求められるのかといった、情報化の進展と教育課程全体との関係について整理しておく必要があった。こうした点については、中央教育審議会における次期学習指導要領改訂に向けた議論も踏まえながら、下記1.や2.において整理している。


○  今後、有識者会議における議論の内容が、中央教育審議会や関係会議等に引き継がれ、プログラミング教育とは何かが適切に周知されることを期待するとともに、この取りまとめが示す方針が、小学校で2020年(平成32年)からの実施が見込まれる新しい教育課程において、外国語教育の教科化等に向けても備えなければならない小学校現場の不安感を少しでも軽減し、プログラミング教育の円滑な実施に資することを期待するものである。

1.いわゆる「第4次産業革命」は教育に何をもたらすのか

○  今後の社会の在り方について、とりわけ最近では、「第4次産業革命」ともいわれる、進化した人工知能が様々な判断を行ったり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来が、社会の在り方を大きく変えていくとの予測がなされているところである。こうした変化は、様々な課題に新たな解決策を見いだし、新たな価値を創造していく人間の活動を活性化するものであり、私たちの生活に便利さや豊かさをもたらすことが期待されている。


○  その一方で、“人工知能の進化により人間が活躍できる職業はなくなるのではないか”“今学校で教えていることは時代が変化したら通用しなくなるのではないか”といった不安の声もあり、それを裏付けるような未来予測[1]も多く発表されているところである。教育界には、変化が激しく将来の予測が困難な時代にあっても、子供たちが自信を持って自分の人生を切り拓き、よりよい社会を創り出していくことができるよう、必要な資質・能力をしっかりと育んでいくことが求められている。


○  学校教育が目指す子供たちの姿と、社会が求める人材像の関係については、長年議論が続けられてきた。現在、社会や産業の構造が変化していく中で、私たち人間に求められるのは、定められた手続を効率的にこなしていくことにとどまらず、自分なりに試行錯誤しながら新たな価値を生み出していくことであるということ、そして、そのためには生きて働く知識を含む、これからの時代に求められる資質・能力を学校教育で育成していくことが重要であるということを、学校と社会とが共通の認識として持つことができる好機にある。


○  こうした資質・能力の育成は、学校教育が長年目指してきたことでもある。現在、中央教育審議会においては、教育課程がどのような力の育成を目指しているのかを可視化し、それを社会と共有し連携・協働しながら育成していこうという、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた検討が進められているところである。


○  急速かつあらゆる領域に影響する情報化といった社会的な変化が、教育にどのような効果や影響をもたらすのか。教育はそうした変化をどのように受け止め、未来の創り手となる子供たちに何を準備しなければいけないのか。こうしたことを踏まえながら、新しい教育課程の在り方が議論されていくことが求められている。

(1)「学ぶ」ことの意義と、これからの時代に求められる力の再確認

○  近年の人工知能は、人間が物事を認識して理解していく学習の過程を模した「深層学習」によって飛躍的に進化したと言われている。人工知能が、大量のデータから共通する特徴を自ら見いだして概念的なものを獲得し、それを未知のデータにも当てはめていくという過程は、人間が様々な概念を獲得し物事を理解していく学習過程に似ていると考えられなくもない。


○  こうした人工知能が、与えられた目的の中での処理を行っている一方で、人間は、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え出すことができる。多様な文脈が複雑に入り交じった環境の中でも、場面や状況を理解して自ら目的を設定し、その目的に応じて必要な情報を見いだし、情報を基に深く理解して自分の考えをまとめたり、相手にふさわしい表現を工夫したり、答えのない課題に対して、多様な他者と協働しながら目的に応じた納得解を見いだしたりすることができるという強みを持っている。


○  このために必要な知識や力を成長の中で育んでいるのが、人間の学習である。今後の教育の在り方を議論するに当たっては、私たちが物事を学ぶ学習過程の重要性を改めて認識しながら、子供たちが複雑な情報を読み解いて、解決すべき課題や解決の方向性を自ら見いだし、多様な他者と協働しながら自信を持って未来を創り出していくために必要な力を伸ばしていくことが求められる。また、その過程において、私たちの生活にますます身近なものとなっている情報技術を、受け身で捉えるのではなく、手段として効果的に活用していくことも求められる。


○  現在、中央教育審議会では、子供たちが学校で「何を学ぶのか」という学習内容に加えて、それを「どのように学ぶのか」という学習過程の在り方や、その成果として「何ができるようになるのか」という資質・能力の在り方が総合的に議論されているところである。各教科等の学びを通じて身に付く、物事の捉え方や考え方の枠組みといった「見方・考え方」とは何かを明らかにし、それを学びの中で活用した「主体的・対話的で深い学び」を実現するというアクティブ・ラーニングの視点を位置付けること、そうした学びを通じて、生きて働く知識・技能の習得や、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成、学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養(かんよう)につなげていこうという改革の方向性は、これからの時代に求められる教育の在り方として極めて重要である。

(2)「次世代の学校」の在り方

○  情報技術の進展は、これからの時代に求められる教育の実現を大きく後押しすることが期待されている。ICTが持つ特性や強みとしては、以下のような点が上げられる。
(1) 多様で大量の情報を収集、整理・分析、まとめ表現することなどができ、カスタマイズが容易であること(観察・実験したデータなどを入力し、図やグラフ等を作成することを試行錯誤しながら繰り返し行ったり、発表内容を効果的にまとめて共有したり、個々の子供の学習ニーズに応じた学習内容を組み立てたりできること)
(2) 時間や空間を問わずに、音声・画像・データ等を蓄積・送受信できるという時間的・空間的制約を超えること(距離や時間を問わずに児童生徒の思考の過程や結果を可視化したり、学習過程を記録したりできること)
(3) 距離に関わりなく相互に情報の発信・受信のやりとりができるという、双方向性を有すること(教室やグループでの大勢の考えを距離を問わずに瞬時に共有したり交流したりできること)


○  こうした特性や強みを学校教育の中で効果的に生かすことが、「主体的・対話的で深い学び」の実現や、個々の能力や特性に応じた学びの実現、離島や過疎地等の地理的環境に左右されない教育の質の確保に大きく貢献することが期待されている。また、効果的な学習評価の実現や校務環境の改善等にも、ICTの役割が期待されているところである。


○  当然のことながら、ICTの導入によって全ての教育課題に道筋がつくわけではなく、実験・観察等を実際に体験することや直接的な交流の重要性等も踏まえ、子供たちに必要な学びをデザインする中でICTを効果的に活用し、子供の学びを価値あるものとしていく教員の役割は、これまで以上に重要となる。教員の授業力の向上や学校の機能強化に資するICT環境の在り方を念頭に置きながら、アナログかデジタルかを対立的に捉えずに、「次世代の学校」にふさわしい環境整備と新しい教育課程の在り方を併せて議論していくことが求められている。

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